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「楽しさ自己ベスト」がいい

生徒様がレッスン中に、「どうしてうまくいかないんだろう」「先生みたいに上手に作れない」と少しがっかりしてしまうことがあります。上達したいという向上心があるのは本当に素晴らしいことです。けれどテクニック的なことは、手先の器用さ、動きのしなやかさ、過去の手芸経験など色々な要素が絡んできますから、なかなか思うようにはいかないものです。

生徒様が不本意そうにしていらっしゃる時には「初めからうまくできる人はいませんよ、練習すれば必ず上達しますよ」と言ったり「初めから上手だったら、私(佐々木)の立場がなくなっちゃうじゃないですか~(笑)」と冗談めかしたりしていましたが、その度に(なんだかしっくりこないな)(もっといい言葉がかけてあげられないかな)ともやもやしていました。

 

そんな中先日読んだ、ハンマー投げの世界的な選手だった室伏広治さんの著作にこんな言葉がありました。

 

『不本意で納得できない結果であろうと、とにかく「これがいまの自分の実力だ」ということを認めなければ何も始まりません。~中略~「うん。これがいまの自分なのだ」とむしろ大きく頷いて、明日からまたやり直せばいいのです。』『スポーツであれ仕事であれ、全力を出し切ったのであれば、たとえどんな結果であっても、その取り組みは、きっと次につながります。』(「ゾーンの入り方」室伏広治・著)

 

室伏さんは41歳まで現役でハンマーを投げ続けた超一流のアスリートで、熾烈な勝負の世界を勝ち抜いてきた方ですから、ご自分に対する厳しさたるや常人には真似のできないレベルなのだろうと思ってしまいますが、抜粋させていただいた言葉からはシンプルに自分だけに向き合う姿勢がうかがわれるように思います。しかも、著作の中には「おもしろくてやめられなかった」「好きで楽しいからもっともっと追求したかった」というような言葉が何度も出てきて、ハンマー投げという競技に限らないスポーツの本質的な要素である「楽しさ」のとりこになっていた様子が感じられます。

 

手芸もスポーツと本質的な要素は似ているのではないでしょうか。すなわち、達成感、楽しさ、充実感、活動性、などが根っこになった活動という部分で共通しているのではないでしょうか。だとすれば、マクラメだって同じこと。楽しみながら作って、できあがったら嬉しくて、「あ~面白かった!」と思えたならばそれでいいのです。作品の出来を他人と比べる必要なんて全くないし、それどころか、自分の以前の作品と比較する必要もなく、今このマクラメ制作の時間をとことん楽しむ。その経験が積み重なっていくしばらく経ってふと振り返ったら上達しているかもしれないけれど、それは極端に言えば、おまけのようなもの。室伏さんのように日本を背負ったアスリートでもないわけですし、「楽しさが自己ベストを更新した!」と思えたならそれが最高なのではないでしょうか。

 

生徒様に「思い切り楽しめましたか?」と聞いてみた時に「はい。とっても楽しめました!」と心から言っていただけることを願って、私にできることは何でもお手伝いしたい。そんな風に心新たにしました。