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アンケートから分かるマクラメの効果*フロー

半年ほど前になるのですが、昨年、生徒様にアンケートにご協力いただきました。その中の『マクラメを結んでいる時、どんな気分になりますか?』という設問に対してのお答えは次のような結果になりました。(他の設問のお答えについてはこちらのブログもご参照ください。)

 

 

・集中していて頭の中のモヤモヤがなくなる感じです。(H様)

・無心になります。集中できるので気分転換になります。(O様)

・時間を忘れて「無」になれる。(S様)

・マクラメをやり始めると熱中してしまって、もう少しもう少しと止められなくなります。(K様)

など 

 

これは生徒様がマクラメの制作中にフロー状態であるということを示していると考えられます。

フローを感じるかどうかは主観的なものなので、「時間を忘れるくらい夢中になる」「頭の中のモヤモヤがなくなる」などはまさにフロー状態だったという証拠ですね。わたし自身もマクラメを始めるとほとんどいつもフローを経験します。

 

 

フローとは、その時にしていることに完全に浸りきって集中している精神状態で、自分が自分の行動のすべてをコントロールし、自分を統制・制御している感覚を伴うもののこと。心理学者M・チクセントミハイ氏によって提唱されました。これは、スポーツ心理学の分野で「ゾーンに入る」と表現されるものとほぼ同じ状態のことで、「ゾーンという言葉は聞いたことがある」という方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

フロー状態にはいくつかの特徴があります。

 

最も特徴的なのは、時間の感覚が変わることだと思います。フロー状態の時には時間が経つのがとても早く感じられるようになります。レッスンの時も、時間が終わり頃になると「え?!もうこんな時間??早いわ~!!」と仰る生徒様がたくさんいらっしゃいます。

 

もう一つの特徴はある特定のことに対する高い集中が挙げられます。極度に集中しているために、集中しているある特定のこと以外のすべてが(自分の存在さえも)消えてしまったかのような感覚になります。以前ブログに書いた黙々タイムも、生徒様がマクラメの制作に集中しきっている(没頭している)ために他のことは一切頭に浮かんでこない状態になっていると考えられます。

 

その他にも、自分で自分の行いをコントロールできていると感じられること(自己統制感)、作業そのものや自分の内外から即座にフィードバックがあること、明確な目標があって達成できる見通しがあること、などがフロー状態の特徴です。

 

 

アンケートのご回答には「止められなくなる」と書かれた方がいらっしゃるように、フローを感じる活動(経験)は、病みつきになってやめられないほど楽しく喜びに満ちたものなのです。

 

でも美味しいアイスクリームを食べるような単純な快楽とは違って、むしろ活動の最中はいつも嬉しかったり楽しかったりするわけではありません。マクラメの制作中は、「これでいいのかな」「どうしたらきれいに結べるかな」と悩んだり、困ったり、迷ったり…。あげくに力を入れ続けて指が痛くなることもあります。けれどフロー活動から得られる達成感、充実感は、快楽とは比べ物にならない深く満ち足りた感情をもたらしてくれます。(もちろん、美味しいアイスクリームのような快楽も一種の幸福感には違いありませんし、時には必要ですよね。)

 

 

浅川希洋志氏が日本人大学生を対象に行った調査では、『より多くの時間をフロー状態で過ごした大学生の方がそうでない大学生よりも、一週間を通してより高い集中力を示し、より活動を楽しみ、より積極的に活動に取り組み、より高いレベルのコントロール感と満足感を経験し、より高いレベルの充実感を得ていた』ことが分かっているそうです。日常生活をより良質なものにするためには多くのフローを経験することが重要な一要素であるとするならば、フローを経験しやすい活動に費やす時間を積極的に増やしていけばいい、ということになります。

 

 

フローを経験しやすい活動は、スポーツ、読書、舞台や映画の観賞、庭仕事、ペットの世話、など人それぞれあると思います。マクラメもフローを経験しやすい活動として、マクラメをまだ知らない人にはぜひ試してみて頂きたいし、生徒様にはレッスンの時だけでなくぜひ日常的に制作に取り組んでみて欲しいなと思っています。

 

(参考文献 「フロー体験 喜びの現象学」M.チクセントミハイ・著 「フロー理論の展開」今村浩明、浅川希洋志 ・編 など敬称略)